旅の恥はかきすて

アメリカ西海岸SD在住のこるーさんが『反省しない女』と題して、引っ越したばかりのご自宅から締め出された顛末を書いてらしたのを拝見し、「うははは~っ」と大笑いつつ、自分も似たような経験をしたことがあるのを思い出しました。
といっても、私の場合、締め出されたのではなく、閉じ込められたのであります。

ということで、他人の失敗談を面白がってばかりでは申し訳ないので、
自分の失敗談もちょっくら書いてみようかと思います。

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それは友人とふたり、離島から某都市に戻って、とある安旅館に投宿したときのこと。
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それぞれの部屋に荷物を解いたあと、ともあれ汗を流してさっぱりとし、
国○通りの居酒屋にでもくりだそうじゃないかと相談がまとまり、
廊下のつきあたり、共用のバスルームを見に行くと、一度にふたり入るにはちと狭い。
しかしバスルームは男女別にふたつあって、隣の男風呂は空いているようだ。
そこで私は友人に女風呂に入るよううながし、自分は男風呂に入ることにしたのである。

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ここで一応断っておくが、普段の私は女性用トイレが清掃中だからといって、
「待ってたらモレちゃうわよ~」と、人目もかまわず男性用トイレに飛び込むようなまねは、
今までただの一度もしたことがない。
しかし、このバスルームに関しては、真昼間のことで他に宿泊客の気配もなかったし、
友人と「お先にどうぞ」「いやいや、あなたが」と譲り合いをするのも面倒、
お互いを待つ時間ももったいない。なによりさっさと汗を流して、
ちべた~い泡々を、くく~ぃと飲みに行きたいという気持ちが強かった。

まあ今にして思えば、「魔がさした」のである。

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バスルームは脱衣所があり、その奥がタイル張りの風呂場で、
廊下に面した脱衣所のドアは内からカギがかけられるようになっている。
カギはよくあるドアノブ型で、内からサムターンを回して施錠するとき、
聞きなれたカチッという音ではなく、なにやら鈍い音がしたのにイヤ~な予感を覚えた。

まあだいたいこういう予感はあたるものである。

しかしそのときに急いで出ようとしても、結果は同じだったろう。
ともあれ風呂が先だ。
それでも私としては異例のスピードでシャワーを済ませたのは、
やはり男風呂に入っているという意識と、さきほどの予感があったからだと思う。

はたして、鍵を開けようとする私に対しドアノブはビクともしなかった。
あちこち押したり引いたりしてみたが、どうにも動かない。
こうなればいたしかたない。
奥隣の女風呂から友人が出てくるのを待って、外からなんとかしてもらうしかない。

しかし友人はなかなか出てこなかった。
私に女風呂を譲られたのをいいことに、ゆったり湯船につかって
ハナ歌なんぞを歌ってやがるに違いない。

じりじりと長く感じる待ち時間のあと、やっと出てきた友人の気配に声をかけ、
外と内から「セーノッ」でドアノブを回そうとしたが動かない。

やむなく友人は宿の主人を呼んできた。
初老の主人はアクシデントに驚きながらも「なぜ男湯に~」などとは一言も聞かず、
持ち出した工具でアレコレ懸命にやっていたが、やはりビクともしない。

ここにいたって宿の主人は苦渋の決断を下した。
119に電話したのである。

d0005397_4312482.jpg救急救助隊はすぐさまやってきた。
声や足音からすると4~5人は来たようだ。
いやはや、どうも大層なことになってしまった。
リーダーらしき隊員からの、
「中の人、大丈夫ですか!?」という
力強い声がかけられる。
いや別に怪我をしたわけではないし、
酸素が欠乏しているわけでもないから、
「はあ、大丈夫です」と答えるしかない。

そこから救助隊の救出活動が開始され、ドアの外ではトンテンカンテンと、
さまざまな方法が試みられたようである。
その間も「もうすぐですからね!」「安心して!」と、励ましの声がたびたびかかる。
誠に感動的なシーンであるのだが、助けられる立場の私は、
あまりに長い時間がかかるのに疲れてしまい、
脱衣所と奥の風呂場の間のドアを開け放ち、浴漕のヘリに腰掛けて待っていた。

結局、救急隊のワザを持ってしても、壊れた鍵は開けられず、
代わりにドアが壊されることになった。
再びリーダーの声がした。
「いいですか、これからドアを破ります!、大丈夫ですか?」
「は?」
「あの、服は着てますか?」
「・・・・(はじめから)着ています」

私がうら若き美女であったなら、助けてくださるお礼に一肌脱いでも良いところだが、
ここはまあ、着ている方がお互いのためであろう。

「それでは、ドアを破ります。危ないですから、後ろに下がって~!!」

もうとっくに下がってるがな。

ドスーン、ドスーン、メリメリ!!。

最後の最後は力づくだよ。
とうとう破壊され、ぽっかり空いた穴から救助隊員が飛び込んでくる。
狭いんだから、入ってこなくてもいいって。

ようやく外に出ると、呆然とした表情の友と、
情なさそうに目をしょぼつかせた宿の主人の顔が並んでいた。

宿にしてみれば、鍵のみならまだしも、ドアごと新調しなくちゃならないとは
降ってわいたような災難であるに違いない。
宿の主人に、「とんだ事になってしまって、すみません」と言うと、
「いえいえ、ウチのせいで迷惑をかけてしまって」と、謝られた。
ちょいとボロいが、安くて良い宿、良い主人なんである。

ところで、私はそのあと事情徴収されてしまった。
住所、氏名、年齢・・エトセトラ。
偶然風呂場に閉じ込められただけなのに、
なんでそんな個人情報を教えなきゃいかんのかね。
男湯に入っていたという後ろめたさも手伝って、
助けてもらったくせに私は腕組みをしたまま憮然としていた。

だいたいちゃちいドア1枚に時間がかかりすぎ。
大勢でドアそのものをぶち壊すより、ちょうつがいを外せなかったのか、
すなわち損害を最小にとどめられなかったのか、
段取りや手際にも不満があった。

事情徴収を終え、工具や器具を撤収したバスターズレスキュー隊は引き上げていった。

残され立ちつくす3人(私と友と宿の主人)。

友が言った。
「いろいろ聞かれて、顔が怒ってたね」
「うん」
「年齢、詐称したよね」
聞いてたんかい。
それはね、怒ってたからじゃないのだ。

調書を取っていた隊員が、好みのイケメンだったからなのだ。

ともあれ我々は開放された。
ずいぶん時間を無駄にしたが、予定通り美味い郷土料理や泡々にもありつけた。

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翌朝、洗面のついでに風呂場を見ると、壊れたドアは大きな紙で穴をふさがれて、
男湯はそのまま使用されていた。
宿である以上、修理が終わるまで男湯は閉鎖というわけにはいかないのだろう。
ま、安宿のことであるし、男性客から文句も出るまい。
また空いているからといって使おうとする女性客も、もういるまい。

しかし、万一また鍵が壊れるようなことがあったとしても大丈夫。
宿の主、次回はきっとホンモノの119ではなく、
「鍵の救急隊」に電話するはずである。

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(注)写真はあくまでイメージ画像です(笑)。
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by Tamarind-Cafe | 2006-04-04 06:20 | 旅のハナシ  

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