永訣の朝
宮沢賢治の『永訣の朝』というのがある。
けふのうちに
とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ
(あめゆじゅとてちてけんじゃ)
うすあかくいっさう陰惨な雲から
みぞれはびちょびちょふってくる
(あめゆじゅとてちてけんじゃ)
青い蓴菜のもやうのついた
これらふたつのかけた陶椀に
おまへがたべるあめゆきをとらうとして
わたくしはまがったてっぽうだまのやうに
このくらいみぞれのなかに飛びだした
当時はすっかりそらんじていたほど、
あまりにも哀しく美しいこの詩を、
灰色の空から落ちてくる雪を仰ぎ見て、
久しぶりに思い出した。
(あめゆじゅとてちてけんじゃ)
蒼鉛いろの暗い雲から
みぞれはびちょびちょ沈んでくる
ああとし子
死ぬといふいまごろになって
わたくしをいっしゃうあかるくするために
こんなさっぱりした雪のひとわんを
おまへはわたくしにたのんだのだ
ありがたうわたくしのけなげないもうとよ
わたくしもまっすぐにすすんでいくから
日本列島を襲った寒波の朝、
母が逝きました。
最後に母が望んだのは
あめゆきではなく、ひときれの蜜柑でしたが、
高い熱と呼吸困難のために、
その甘く冷たい汁を嚥下することは
もはやできませんでした。
もうすぐ「あの日」から14年。
母が病に蝕まれていった14年。
長く激しかった苦しみからようやく解放されて、
いまはどこにいるのかなあ。
「ほんとうにお疲れさんでした。
今までがんばってくれてありがとうね。
またきっと会えるから、それまでのんびりと待っててな。
それまでは、私もまっすぐにすすんでいくから」
by Tamarind-Cafe | 2009-01-13 10:11 | Memorial









